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2024年05月11日
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【異聞】鬼ノ棲ム森 / 其ノ壱 『赤眼』

2008年05月22日
第壱話です。
こういう形で分割して話を進めていく事にします。
「続きを読む。」からどうぞ。
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とある山奥の村に産まれた男の子は片目が赤い色をしていました。
村人には「鬼」と呼ばれ、実の両親にも拒絶された男の子は
森の奥に住む祖父に引き取られる事になりました。

不憫に思った祖父は沢山の愛情を注ぎ男の子を育てました。
その甲斐あってか男の子は真っ直ぐにすくすくと成長し、
ふたりの幸せな日々が続きました。

ある時、祖父は「村には近付いてはならない」と言いました。
不思議に思った男の子が「どうして?」と理由を訊くと、
祖父はひと言「幸せが逃げてしまうからだ」と言いました。
よく解らないまま、男の子は頷きました。

しかし好奇心旺盛な年頃の男の子は
何度も村の近くまでやって来ては木陰からそっと覗いていました。
自分と同じ歳ほどの子供達が遊んでいたからです。
仲間に入りたくて恐る恐る声を掛けても皆逃げ出してしまいます。
ある時は石を投げつけられました。
どうしてそんな扱いを受けるのか解らなかった男の子は
叱られるのも覚悟して祖父に訊ねました。
「どうして村の子供達は僕を見ると逃げ出すの?」と。
それを聞いた祖父はただ哀しげな表情を浮かべただけでした。

それから二週間ほどたったある日、祖父は息を引き取りました。
「僕の所為だ・・・僕があの約束を破ったから・・・」
男の子はひどく後悔しました。
しかし、いくら悔やんでも祖父は戻ってはきません。
独りで生きていく自信がなかった男の子は村の人に助けを求める事にしました。
また約束を破る事になるのを承知の上で。

男の子が村に足を踏み入れた途端に村人は皆家の中に逃げ込みました。
ある人は恐ろしいものを見るような眼で。
ある人は「鬼の子が来た」と叫びながら。
そして村の奥からひとりの老婆がやって来て、こう言いました。
「鬼の子よ、ここはお前が来るべき所ではない。
 早くあの森へ帰れ。そして二度と姿を見せるな」
それだけ言うと老婆は村の奥へと消えました。
意味を呑み込めず立ち尽くしているとあちこちから石が飛んで来ました。
謂れのない迫害を受けながら男の子は森の奥の家へ逃げ帰りました。

「どうして僕がこんな目に遭わなきゃならないんだろう・・・」
男の子は石に当たり傷付いた身体を眺めながら呟くと涙が零れました。

それから村人に出会う度に石を投げられたり罵声を浴びせられたりしました。
そうして責められている内にようやくその原因に気がつきました。
「好きでこんな眼に生まれたんじゃないのに・・・」
男の子は、嘆き、苦しみ、次第に他人を憎む様になっていきました。
石を投げられる前に石を投げ、罵声を浴びせられれば噛み付いて、
それを繰り返していると、いつからか村の人々はその森を「鬼ノ棲ム森」と呼び
恐れ慄き、誰も立ち入る事はなくなりました。
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【続】

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