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2024年03月28日
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【異聞】鬼ノ棲ム森 / 其ノ弐 『白夜』

2008年05月22日
第弐話です。
「続きを読む。」からどうぞ。
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そうして傷付く事はなくなりましたが、少年の孤独な日々は続きます。
月の隠れた夜は寂しさを堪え切れず啼き叫びました。
その声は村まで響き、村人達は耳を塞いで夜が明けるのをただ待ちました。

それから幾年が過ぎたある夜、
風貌まで鬼のようになってしまった少年が
いつまでも癒えぬ哀しみに、収まらぬ怒りに、深い嘆きに震えていると
その背中にそっと近付く小さな影がありました。
何者かの気配を感じ振り向くと、そこには長い髪の少女が立っていました。
「・・・泣いて、いるの?」
独特の雰囲気を纏った少女がそう問い掛けると
少年は我に返り、少女をただ睨み付けました。
(こいつも村人達と同じ・・・きっと俺の眼に怯える筈だ)
それでも少女は身動ぎひとつせず少年を見詰めました。
(・・・何だ?こいつ・・・とっとと逃げ出してくれよ・・・!)
次に少年は牙を剥き、唸り声を上げました。
それを見た少女は笑顔を浮かべながらゆっくりと近付いて来ました。
「・・・怖くないよ、大丈夫」
そう呟くと少女はそっと抱きかかえる様に少年の頭を撫でました。
突然の出来事に少年は戸惑いましたが、不思議と悪い心地はしませんでした。
(温かい・・・)
初めて触れた他人の温もりに、自然と涙が溢れました。
その瞬間強く風が吹き、雲が流れ、月の光りがふたりを照らした。

「・・・俺、鬼なんだよ?」
ひと言、絞る様な声で少年が呟くと、不思議そうに少女は聞き返した。
「どうして?」
「・・・だって村人達が皆、口を揃えてそう呼ぶから」
それを聞いた少女はこう言った。
「誰が何を言ったとしてもあなたは【あなた】でしょう?」
やさしく、微笑みながら。
その笑顔に、少年は記憶にない母の面影を重ねていた。

少女はあの村では「白夜ノ巫女」と呼ばれる存在なのだと話した。
「わたしはね、未来が見えるの。ほんの少しだけれど。たとえ暗い夜道でも迷わず歩けるように、闇夜を照らす存在でなければならないの」
少女もまた異端の血を持つ人間だった。
しかし他人の役に立つか立たないかで扱いはこうも違うものだ。
一方では崇め奉られ、一方では厭い蔑まれる。
だけど、同じモノを持つ者にしか共有出来ない感覚があった。
それは言葉では上手く表せないモノで。
隙間を埋めるように、俺達は惹かれ合っていった。

それからというもの毎夜のように逢瀬を重ね、急速にふたりの仲は深まっていく。
少年が遠い昔に忘れてきた感情が次々と甦っていった。
楽しい気持ち、嬉しい気持ち、優しい気持ち、他人を愛する気持ち。
もう鬼の姿など何処にもなかった。
そこに居たのは仲睦まじく笑い合うふたりの少年少女だった。

逢う度に色々な話をした。
生い立ちの事、育ててくれた祖父の事、村の人々にされた事、今までの全て。
彼女は全てを優しく包み込んでくれた。
(この温かさが「巫女」たる所以なのかな・・・)
彼女は色に例えるならば「白」そのものだった。
無垢で全てを包み抱く柔らかく温かな光の色。
太陽の下に出る事が出来ない少年には、彼女の存在が唯一の光だった。

こんな日々が、この幸福が、永遠に続けばいいと願った。
しかし、その願いは天には届かなかったのだ。
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【続】

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