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2024年04月27日
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【異聞】鬼ノ棲ム森 / 其ノ肆 『黒点』

2008年05月29日
第肆話です。
「続きを読む。」からどうぞ。
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夢中で走り抜け、気が付くと森の外へ出ていた。
そこは「清めの湖/キヨメノウミ」と呼ばれる湖だった。
急に足の力が抜け、膝をついた。
頭の中では疑問だけがぐるぐると回っている。
荒くなった呼吸を鎮めようと深く息を吸い込んだ。

少し落ち着いた頃、何処からか唄が聴こえてきた。
か細く消え入りそうで、哀しく美しい唄声が。
俺はその声を知っていた。
気が付くと再び駆け出していた。

そこに、彼女は居た。
真白き着物の所々が赤黒く染まっている。
その姿に声も掛けられないまま、そっと近付くと足音に反応して彼女は唄うのを止めた。
「・・・誰、ですか?」
彼女は振り返りもせずに問いかける。
「・・・・・・・・・・・・俺、だよ。」
ようやく、それだけ、絞り出した。
すると、彼女が振り返る。
赤い涙を流し、哀しき笑顔を携えながら。
「・・・約束、守れなくてごめんね」

 それよりその姿はどうしたんだ?!
 その瞳は?!力を失ったって?!
 何故こんな所に?何があった?
 ・・・・・・俺の・・・所為、なのか・・・?

聞きたい事は沢山在った。
だけど、言葉が、上手く出て来ない。
少しの沈黙が流れる。

彼女は再び唄を口遊み始めた。

  現世に鬼が居るのなら それは己が心に棲む
  人よ 怒りに呑まれるなかれ
  怒りに狂えば鬼と生る
  人が真に恐れるのは 内に潜む醜き姿
  憎しみに我を忘れるなかれ
  その時たちまち鬼と生る

「あなたに、捧げる唄」
唄い終わった彼女が、そう、呟いた。
「全部、あなたにだけ、話すね」
返事さえ出来ずにいると、ぽつりぽつりと彼女は語り始めた。


御祭の最終日。
儀式はつつがなく終了しました。
成功を祝い、村は宴会のようになりました。
皆、酒を呑み大騒ぎでした。
わたしはあなたに逢う為こっそりと抜け出したのです。
儀式が終われば巫女の役目は終わりです。
誰も、気にしてはいなかった。そう、思っていました。
しかし村の若い男衆がわたしの姿を見ていたのです。
追いかけてきた数人の村人達。
わたしは何とか振り切ってあなたに逢いにいこうと思いました。
森の中へ入れば、もう追ってこないと考えました。
でも、わたしは村人達に見付かってしまった。
仕方なく今夜は諦めようと村へと歩き始めた、その時です。
村人のひとりがわたしを地面に押し倒したのです。
一瞬、何が起こったのか分かりませんでした。
混乱しながら周りの顔を見ると皆、正気ではありませんでした。
きっと、酒の所為だったのでしょう。
そして、わたしは、すぐに口を塞がれて・・・


そこまで話すと彼女は涙を零した。
「もう、いい・・・もう、分かったから・・・」
そう言いながら、そっと抱きしめた。
気が付くと自分も泣いていた。

―――憎かった。
村の若い男共が。殺してやりたいほどに。

―――悔しかった。
自分との約束の所為でこんな事態になった事が。
そして彼女を守れなかった事が。

どうにもならない、やりきれない思い。

月の無い空に、鬼の叫び声が響いた。
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【続】

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