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2024年04月20日
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【異聞】鬼ノ棲ム森 / 其ノ伍 『蒼葬』

2008年05月31日
第伍話、これで完結です。
「続きを読む。」からどうぞ。
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本当は、告げるべきではなかったのだろう。
自分の身に起きた事を。
あの人が苦しむのは解っていた。
とても、優しい人だから。

でも、それでも、ちゃんと知っていて欲しかった。
外でもない、あなただけには。


先見の力を失ったわたしは、戸惑いを隠せなかった。
誰にも言えず、一日中怯えていた。
あの時のわたしもおかしくなっていたのだろう。
どうせ明日が視得ぬなら、と―――
自身の手で、右目に刃を突き刺すなんて。
視界が赤く染まり、右目は光を失くした。
それを知った村人達は「鬼の祟りだ」「巫女が穢れた」と口々に囃し立てた。

わたしは何て馬鹿だったのだろう。
力を失くしても、わたしを必要としてくれた人は確かにいた。
それなのに、自暴自棄になって一番大切な人を貶めてしまった。
あちこちであなたを悪く言う声がする。
このまま村に居るのが耐えられなくなった。

―――わたしは、弱かった。

力を失った事を大老様に告げ、逃げる様に村を去った。
人知れず、命を絶つつもりだった。
そこで再びあなたと出逢った・・・。



「泣かないで」
そう言いながら、彼女は力なく笑う。
「本当は、誰も、悪くないの。・・・村の人達も、勿論あなたも」
「でも・・・!」
「・・・わたしが、弱かっただけ」
声が震えていた。
その言葉にただ、哀しみだけが胸に込み上げる。
涸れるほど流しても、涙は尽きなかった。

ふと、彼女が湖の中に歩を進めた。
「何を・・・」
問いかけを遮り彼女は答える。
「わたしはこのままではきっと、弱さに負け、鬼となってしまう。
 わたしは最期まで【人】で在りたいの。」

「最期に、あなたに逢えて良かった」

振り返らず、湖の中へ沈んでいく彼女を、追いかけた。
彼女の手を掴む。
「・・・俺、だって、このままじゃ・・・鬼に、なる」
顔を背けたまま、彼女は言う。
「・・・あなたは、強いわ」
「それは、君が、居たから・・・っ」

痛いほどの沈黙。

「どうしても、行くなら、俺も行く。・・・独りになんて、させない」
そう言いながら、彼女を抱きしめた。
胸の中で、彼女は泣きながら呟く。
「・・・ありがとう」


そして、ふたりは抱き合いながら沈んでいく。
燃え盛る森も、明けゆく空も、全てが蒼く染まる。

それは、まるでふたりの哀しみの色の様だった。
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【完】

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