忍者ブログ

[PR]

2024年04月19日
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【異聞】鬼ノ棲ム森 / 其ノ参 『紅蓮』

2008年05月22日
第参話です。
「続きを読む。」からどうぞ。
--------------------------------------------------------------
ある夏の夜、彼女は言った。
「明日から村で年に一度の御祭があるの。だから暫く逢いには来れない」
ほぼ毎日の様に逢っていたけれど、今までだって逢えない日は在った。
こんな風に前以て言われた事はなかったけれど。
「・・・何か特別な儀式でもあるのかい?」
「御祭の最後の日にこの先の一年を見通す儀式があるの。その儀式に向けて力を蓄える為に御祭が始まってしまうと外へは出れなくなっちゃうから・・・」
なるほど、そういう事情か。やはり「巫女」と言うのも楽ではない様だ。
「そうか、それじゃ仕方ないな。大変だろうけど、頑張って」
「・・・うん、ありがとう。五日後にはまた来れると思うわ」
「ああ、ここで待ってるよ。今度はその御祭の話も聞かせてくれ」
「うん、約束ね」
彼女が小指を差し出したので、そっと指切りをした。
彼女が微笑む。つられて俺も笑う。

―――幸福な瞬間。

その時の俺は、この先に待っている不幸を、未だ知らなかった。


それからしばしの独りの日々が過ぎる。
彼女と出逢ってからこんなに独りで居るのは初めてだった。
寂しい気持ちは確かにあった。
だがそれも御祭の期間だけだ。そう、言い聞かせて耐えた。
別れた時に交わした約束。それだけが心の支えだった。

しかし約束の晩になっても彼女は現われなかった。
(何か、あったのかな・・・?)
約束を忘れるような子ではない。
何かのっぴきならない理由があるのだ、と思い込んだ。
それしか、出来なかった。

次の日の晩も彼女はやって来なかった。
逢えなくなってから一週間が過ぎようとしていた。
「どうしてっ・・・来ないんだよ・・・っ!」
寂しさが限界に達しそうになったその時、
遠くの方から灯りが近付くのが見えた。
(もしかして・・・!)
そう思い、駆け出そうとしてすぐに足を止めた。
彼女はいつも灯りなどは持ってはいなかったから。
怪訝な表情で眼を凝らすと、その灯りは徐々に大きくなっていく様に映った。
「・・・森が、燃えてる・・・?!」

半信半疑のまま確かめようと森の入口に近付くと、
村人達が挙って森に火を放っていた。
「貴様ら、何をしているっ!」
低い声で怒鳴ると一瞬、村人達は怯んだ。
だがそれも束の間、すぐに怒号に変わったのだ。
「鬼よ滅びよ!」「穢れを祓え!」
口々に叫ぶ村人達。
その中でひとりの老婆が前に出た。
昔、見た事がある顔だった。
「お前、あの時の・・・」
老婆が口を開く。
「鬼の子よ、よくも我らが巫女様に穢れを齎したな・・・!」
言ってる意味が飲み込めずにいると更に老婆は続けた。
「お前の穢れの所為でこの村は滅びるかも知れぬ!それが復讐だとでも言うつもりか!鬼の子よ!」
ますます意味が分からないで混乱していた頭に老婆の声が響く。
「お前の所為で巫女様は先見の力を失ったのだぞ!」


何も分からない。
分からないけど、走っていた。森の奥へ。
老婆の最後のひと言が頭を回る。
分からない。何故?力を失った?
俺が、俺が・・・いけないのか?
分からない。何も。彼女は何処に?
ただ走った。燃え盛る森の中を。
声さえも出ない。溢れるのは、涙だけだった。
--------------------------------------------------------------
【続】

拍手

PR
Comment
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字